立命館大学新聞社
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「教育開発DXピッチ最終報告会D.I.G.」全学に先駆け教育DXに挑戦

本学は2月29日、教職員らによる「デジタル技術を活用した新たな教育手法の開発や実践」の成果を発表する「教育開発DXピッチ最終報告会 D.I.G.」を大阪いばらきキャンパス(OIC)で開催した。本イベントは、2022年に開催された「教育開発DXピッチ」で受賞した各チームがアイデアを実現する過程で出てきた工夫や発想を、全学的なDXの推進へ繋げることを目的に企画されたもの。イベントでは「教育開発DXピッチ」で受賞した3チームが約2年間にわたる取り組みの成果を報告したほか、教育DXにまつわる展示や体験ブースが設けられた。

会場の様子

会場には「教育開発DXピッチ」で審査員を務めた、学校法人立命館 仲谷善雄 総長、学校法人立命館 松原洋子 副総長、立命館大学 中本大 教学部長、立命館大学 豊田耕三 教学部事務部長、立命館大学 横田明紀 教育・学修支援センター センター長、立命館大学 沖裕貴 教育・学修支援センター 副センター長 の6名の姿が見られた。今回のイベントではコメンテーターとして、約2年間にわたる取り組みの成果を各チームとともに振り返った。

仲谷 総長「全学的な取り組みへ」

学園ビジョン R2030 チャレンジ・デザインにおいて掲げられた「テクノロジーを活かした教育・研究の進化」を実現する取り組みの一環として行われたこの最終報告会。イベント冒頭、本学の仲谷 総長が挨拶の中で「教育開発DXピッチ」が実施された経緯に触れながら、生成AIの登場やこれに伴う社会変化に「研究者として注目している」と発言した。また、日本マイクロソフト株式会社との提携にも触れながら、現在開発中の本学独自AI「R-AI(仮称)」との接続の可能性についても言及。今回の取り組みを通じた、学園ビジョンR2030の実現へ高い意欲を示した。

自身も人工知能の研究者である仲谷総長

各チームによる発表①

まず初めに成果を報告したのは、チーム1『Ritsumeikan Writing Support Group』のメンバー。このチームでは「学生が自分の書いたレポートに対し、フィードバックを受けられる環境を作る」ことを目標に、レポートを中心としたAIフィードバックシステム「Ri:write」の開発と新たな成長環境の構築へ挑んだという。発表中には、独自開発したというレポート評価システムのデモンストレーションが実施され、誤字・脱字や引用の仕方など7つの項目を0~3の4段階で評価する様子が確認できた。最後は、発表に用いられたスライドの画像が生成AIによって作り出されたものだと明かして締めくくられた。
報告後、中本 教学部長から「(構想の中に)専門分野を組み込んで見るのも面白いのでは」と意見が出されたのに対し、メンバーが「将来的には、(文学や社会学といった)学問分野ごとに専門的な指摘ができるAIが用意できるかもしれない」と答えた。

システムの名称でもある「Ri:write」の由来を語る様子

各チームによる発表②

つづいて成果を報告したのは、チーム2『プロジェクト発信型英語プログラム(PEP)』のメンバー。英語教育の新しい形を提案し続けてきたこのチームは、本学の4学部(生・薬・スポ・総心)で展開中の正課カリキュラムであるPEPの中で「学生が最新の技術やサービスを使って、英語で発信するための支援環境作り」に取り組んできたという。発表の中には、AIやメタバースといった複数の技術の活用が示されたほか、TOEICスコアの推移などを基にした、PEPの英語教育の有効性が示唆される内容が含まれていた。また、難しかった点として「自動翻訳は楽をさせるだけではないか」との懸念にさらされたことを挙げたが、実際には「学部生は自信を持って使ってくれて手応えを感じているのに加え、特に大学院生が論文の執筆や閲読に有用に使ってくれた」とした。
報告後、仲谷 総長から「非常にアグレッシブ(な活動)で、総長として非常に嬉しい。やはり教員が真っ先に挑戦しなくては」と期待を寄せる声が上がった。また「(学園ビジョン R2030で掲げた)次世代探究大学とも通ずる。(これに向けた)実績を積んでこられたという点を高く評価したい」とした上で「これからも飛び抜けてほしい。強烈にサポートする」と強いメッセージを送った。
松原 副総長からは「教師は正解を持っていて、生徒を導くものだと思われがちだが、そうではない。そもそも大学は正解を疑う場ではないか」と指摘した上で「R-GIRO(立命館グローバル・イノベーション研究機構)の教員によるボトムアップ的なチームのプロジェクトと連携しているというのも大学らしい教育のありよう。期待しています」とコメントが寄せられた。

学生へ「最先端の教育に触れてもらいたい」との想いを発信する様子

各チームによる発表③

最後に成果を報告したのは、チーム3『「学生の自分探しを応援する探究型AIコンシェルジュ」構想グループ』のメンバー。自然言語処理技術を使い、学生の潜在的な興味や関心等をもとに、学生に合った大学の授業や研究室を提案するアプリの開発を進めてきたというこのチーム。「興味・関心」とマッチする正課授業・ゼミをAIコンシェルジュが提案することで、自分の興味・関心をアカデミックな視点で捉え深掘りすることができるという。
発表では、ある学部の学生が他学部受講できる講義のリストを例に「一回生の最初の難関が受講登録」だと示した。同時に「AIが一人ひとりに寄り添った提案ができる」とし、実際に授業を選ぶ過程での利活用シーンを実演した。実演時に、うまく稼働しないトラブルがあったものの「入力された興味の分野に近い授業と、あえて“適度に遠い”授業を提案」するといったチャットボットの仕様について解説がされた。実証では、モチベーションアップや、周辺科目の探索などで効果があり、ポジティブな声が7割を超えたという。
報告後、横田 教育・学修支援センターセンター長から「2022年のピッチの際にも、この取り組みに関心を持って審査した1人だった。学生は自分が見えている範囲でしか選択肢がなく、常識のような、線引きの中で選択を繰り返している」と学生の現状を指摘。その上で「学生自身が気が付かない興味・関心を発掘できるのではないか」と期待を寄せた。

AIコンシェルジュの仕組みを解説する様子

質疑応答、チーム間交流

各チームの報告後、チーム同士の交流のほか、コメンテーターや会場の参加者との意見交流の場が設けられた。イベント当日は、会場の参加者が意見を伝えられるツールが用意され、発表を聞いた学生らからさまざまな声が寄せられた。
会場から「評価だけして、リライトしていない」との意見が表示されたのに対し、チーム1のメンバーは「AIに書き直させることを求めていない。機械が得意な量的処理を活用し、人間が得意とする対話とのコラボレーション(によって書き直しの精度が上がること)が重要だ」と返答した。また、参加者から「既存のものを使っただけではないか」との指摘に対し、チーム2メンバーは「(既存のものを)どのように使っていくのかが重要となっている。私たち教員が機能や方法をよく知った上で授業に組み込まなければならない」と応じた。さらに、コメンテーターとして参加した沖 教育・学修支援センター 副センター長の「人間とAIの関係性について、人間の役割は増えるのか減るのか」という問いに対して、各チームはそれぞれ「人間が必要な部分は多い。特にこのシステムは、研究者やチューターとの相乗効果が期待できる(チーム1)」「どんなに良い教材でもガイドが必要。教育者は、英語を学ぶ意義や方法を表現する役割がより求められていく(チーム2)」「AIはツールに過ぎない。役割や関係性は、使う側の人間に左右されるだろう(チーム3)」と回答した。

質疑応答後、記念撮影に応じたコメンテーター(前列)と成果を報告したメンバー(後列)

会場の様子

報告が行われたグランドホールの外には「教育DX」に関する学内プロジェクトや関連企業のブースが設置された。ブースには、立命館宇治高等学校の硬式野球部分析チームによるデータ活用の事例や、PEP(発表チーム2)と提携する株式会社みらい翻訳による機械翻訳技術などが展示された。

報告会の参加者がブースを見学し、担当者へ質問する場面も見られた
仮想現実(VR)を活用した展示を体験する学生

また、報告会後に行われた各チームとの意見交換会へは学生の参加も見られ、取り組みの内容や今後の展開についても質問が寄せられた。本イベントに参加し、立命館大学学友会の学園振興委員長を務める瀧口夏寧さん(文4)は「活動報告及び交流やブース訪問から、1人の学生としてワクワクした」とした上で「学内の教学に実際どの程度落とし込めるのか、教学部と共に議論していきたい」と今後の展望を語った。
(小野)

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また本紙は、意見交換会の折に、各チームへ単独取材する機会を得た。
以下、各チームへのインタビューを掲載する。

チーム1『Ritsumeikan Writing Support Group』

インタビューに応じた本学教学部の大田桂一郎さん(左)
Q. プロジェクトを、一言で表すと?

A. 自分が書いたレポートの評価について、フィードバックがもらえるプロジェクトです。学生が書いたレポートは、一度の提出で終わりがちだと私たちは感じています。教員がそうしたいわけではなく、担当する学生全員に丁寧なフィードバックをする余裕がないのです。こうしたフィードバックの機会の敷居を下げたかったのが(このプロジェクトの)きっかけです。
このシステムは、アクセスするだけで簡単にレポートの評価を、学生自身が何回も受けることができます。将来的には、本学のライティング・サポート室のホームページに(立命館大学の学生認証を経て)アクセスすることで、全学生が使えるようにしたいと考えています。

Q.(本学の教育開発ピッチで受賞してから)これまでの2年間の総括をお願いします。

A. いろいろありましたが、やはり一番影響が大きかったのはチャットGPT(生成AI)の登場ですね。私たちが開発していた「文と文との整合性」「語尾」などの評価ができる機械学習(の取り組み)がある程度出来るようになってしまったおかげで、プロジェクトの方向性を変えざるを得ませんでした。一方で、これを取り入れることで、むしろアウトプット(レポート評価についての出力)の精度が良くなったのは思わぬ成果です。
また、このシステムは学生に(レポートの)データをアップロードしてもらい、それらのデータを蓄積しデータベース化することで、アウトプットの精度が上がる仕組みになっています。プロジェクトを進める中では、アップロードされたデータの個人情報を暗号化(保護)し、個人情報をデータベース化しないよう取り組んできました。

Q. 学生に向けたメッセージ

A. 公開された暁には、どしどし使ってください!レポートをより良いものに、という向上心をサポートできたらと思っています。生成AIへの否定的な意見もありますが、立命館は「適切な利活用の方法を積極的に模索」していくというスタンス(立場)にあるので、ぜひ有効に使ってもらえればと思います。

チーム2『プロジェクト発信型英語プログラム(PEP)』

質疑応答に応じる生命科学部の山中司教授(左)
Q. プロジェクトを、一言で表すと?

A. (最先端のテクノロジーを使った)結果がどうなるかわからないけれど、実験的にありとあらゆるDX環境を整えたら「どんな英語教育ができるか」を試行しています。学生の反応を目の前で見てきて、手応えを確実に感じる一方で、統計的な優位性を証明するにはもう少し時間がかかりそうだと感じています。欲を言えば、卒業後にどう影響したかまで調べていきたいですね。
このプロジェクトでは、社会で役立つことをやっているという自負があります。教育というものを考えた時に、本当に狙わなければならない効果はそこ。私は海外に行くような(英語で話す場面を考えた)時、ある時点から「英語を話す」のではなく「(英語で)コミュケーションをとる」ように変わる瞬間がありました。学生に、そうした感覚を体感してもらいたいとの想いでこのプロジェクトに取り組んできました。

Q.(本学の教育開発ピッチで受賞してから)これまでの2年間の総括をお願いします。

A. 2年前の教育開発DXピッチで受賞したおかげで(予算がついて)、プロジェクトをよりアップデートすることができました。そこに生成AIが追い風となって、メタバースやAIなどを活用した日本でも他に例を見ない取り組みを推進してきたのがこれまでの歩みです。これで教育開発DXピッチの予算は終了となるわけですが、今後も、内外から資金を獲得したり、既存のサービスを組み合わせたりしていきたいと考えます。無いものをいかに工夫できるか、ここが私たち(教員)の本分だと考えています。

Q. 学生に向けたメッセージ

A. 私たちは、未来の英語教育を見せたいと思っています。未来で活躍しているのは我々ではなく、学生の諸君です。私たちはその後押しをしたいと常々考えていて、ぜひ社会に出てから「(自身が受けてきた)英語教育はどうだったか」を振り返ってもらいたいと思います。振り返った時、あなた自身にとって本当に良かったと思えるものを、これからも考え提供していきます。

チーム3『「学生の自分探しを応援する探究型AIコンシェルジュ」構想グループ』

参加者と意見を交わす情報理工学部の仲田晋 教授(中央)
Q. プロジェクトを、一言で表すと?

A. このプロジェクトでは、学生一人ひとりの興味・関心を授業と結びつけるシステムを開発しています。AIコンシェルジュとの対話を通じて、学生の潜在的な興味・関心、あるいは得手・経験といった要素を顕在化し、個別最適化された学びを実現できるようにしたいと考えています。チャットで質問に答えていくと、学生の興味・関心に近い授業と「適度に遠い」授業を提案され、学生自身では思いつかなかったセレンディピティ(偶然の産物)を発生させる仕組みになっています。
立命館では、教員のデータベースなどがきちんと整備されています。ゼミのホームページもですが、ここ(既存のデータ)を繋げることで、ゼミ選択などにも活用できるようにしたいと考えています。

Q.(本学の教育開発ピッチで受賞してから)これまでの2年間の総括をお願いします。

A. 結果的には、なんとか形にすることが出来ました。生成AIの登場など、紆余曲折ありましたが、結局“いいとこ取り”のような形で取り込むことにしました。その結果、大規模言語モデルによって、学生の興味・関心から学びの道筋や方向性を示すことが実証できました。一方で、テストする過程でAIからの提案内容を信じきってしまう学生が見られた課題も導き出されました。
今後は、AIの仕組みの理解と、出力を吟味できるAIリテラシー・アカデミックリテラシー教育を実施しつつ、将来的には一人ひとりがアクセスし、どこからでも使える環境にしたいと考えています。

Q. 学生に向けたメッセージ

A. 学ぶ主体はあくまで学生です。どんな興味・関心であっても、必ずアカデミックと繋がると考えています。そんな学ぶ意志のある学生が「主体的に学べる環境や仕組み」を作ることが我々教育機関の使命ではないでしょうか。その仕組みの一つとして開発した「探究型AIコンシェルジュ」は、学生の興味・関心を顕在化させ、大学の授業とつなぐことで、新たな気づきと探究心を芽生えさせることができます。そして、その「新たな気づきと探究心」が
学生一人一人にとっての新たな可能性や未来へと開花することを願っています。