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[クマなく知る]共存の鍵 クマリテラシーと許容力 桜井良准教授

◆桜井良
政策科学部・政策科学研究科准教授。立命館先進研究アカデミー(RARA)アソシエイトフェロー。社会科学の側面から野生動物管理を考える研究に取り組んでいる。

桜井良准教授

今年のクマ被害が拡大した背景には大きく3点ある。

1点目は、クマの個体数が増えていること。2点目は、クマが餌とするドングリなどの堅果類が今年は凶作であったこと。3点目は、人間側の変化。過疎化、少子高齢化で地方では人口が減り、農業従事者の数が減ることで耕作放棄地が増えた。これによりクマの生息エリアが必然的に拡大したことがある。

ここ数年で、クマ被害に対する社会の反応の「フェーズ」が変わったかもしれない。

クマの大量出没自体は、20年ほど前から起きていた現象であったが、当時は「地域の問題」として取り上げられていることが多かった。しかし、クマ被害が過去最高を記録する中で多くの市民が関心を持つ「全国の問題」として報じられるようになったと感じている。

近年のクマに関する報道では、専門家を呼び、時間をかけて科学的な知見を提供するような内容も増えてきた。かつては、一部の学者しか知らなかったクマの生態の知識も、今では市民レベルの会話で交わされるようになった。こうした報道の影響で、社会的に科学的な知識が身についたのだろう。社会的にも「クマリテラシー」が高まっているかもしれない。

クマ問題への対処として、最近では警察によるライフル銃の使用や、自衛隊による箱わなの運搬といった後方支援をするといった動きがある。こうした動きは、クマに対して経験とスキルを備えたハンターが少ない現状では、短期的には最善策かもしれない。しかし長期的には野生動物管理のプロフェッショナルを育成すべきだ。

加えて、野生動物管理において先進地域である米国では、教育プログラムとして「ワイルドライフ・マネジメント (野生動物管理学)」を学べる大学が多くあり、行政側も専門職員として雇うなど、「教育と雇用」の両面での環境が整備されている。日本も制度設計において、米国などから参考にすべき点があるのではないか。

そして、人間の社会的側面から野生動物管理を考える「ヒューマンディメンション」の観点からの合意形成も重要だ。地域で野生動物被害対策を進める際に、立場の違う人が時間をかけて話し合い、社会として目指すべきゴールを整理するなどといった機会は必要だろう。

また、人間活動の負の側面の影響を抑えつつ、自然の再興を図ることを指す「ネイチャーポジティブ(自然再興)」を社会として再考する必要がある。

クマの個体数が増え、人間とのあつれきが生じている以上、対策は必須だが、「ネイチャーポジティブ」の側面から見ると、クマが生息できる豊かな自然が残っていることは評価できるだろう。クマ問題は、人間が野生動物との「共存」の在り方を考え直す重要な機会である。

人間が野生動物と共存するには「許容力」が重要だ。

そのことについては、米国で実感した。米国旅行中に、キャンプ場で過ごしていると、野生のオオカミがサッと駆け抜けていった。その時、現地の人たちは、冷静に「ここは国立公園内だし、オオカミくらいいるだろう」といった様子で普段通りに過ごしていた。日本なら大騒ぎになったかもしれない。

この経験から、怖いと言われている動物でも人間側が適切に対処していたら共存は可能だと感じた。こうした意識をつくり、動物を受け入れる社会を目指していくことが大切だ。

調査時に集落周辺に出没したクマ(桜井良准教授提供)

(金井)